百錬ノ鐵

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グラビア・アイドル一ノ瀬文香が「レズビアン」をカミングアウト

(2019年11月21日 タイトル変更&加筆修正)

 グラビア・アイドルの一ノ瀬文香(いちのせ・あやか)が、光文社「FLASH」2009年4月21日号において、レズビアンであることをカミングアウトした。

 もっともグラドルについては相応の知識があるつもりの私でさえ、見たこともない人物である。たまたまコンビニで(「美しすぎる市議」として話題の藤川ゆり青森県八戸市議会議員の記事目当てに)掲載誌を手に取った。

 誌面には「男を欲情させるはずのグラドルが、男性経験ナシのレズビアン!」「女のコの9割はイカせてあげられるよ」などといった見出しと共に、全裸の一ノ瀬が女性モデルを愛撫する扇情的な写真が載っている。よく見ると一ノ瀬自身の乳首やヘアーは巧妙に隠されているものの、最初は新作レズAVの宣伝記事かと思ったほどだ。(P.60-62)

 “キャラ立ち”狙いの「なんちゃってレズ」のような気もしたが、プロフィールを読むと、インターネット上の漫画配信サイト「漫画ゼロワン」にて、一ノ瀬が自身の経験を元に原作を手がけた『REAL BIAN』なるエッセイ漫画を発表しているという。

 さっそく読んでみたところ、件の週刊誌の写真とは裏腹に、作画担当者・水戸雫の落ち着いたタッチの絵柄も手伝って、実直な印象を受ける内容だった。

 併せて一ノ瀬のブログ『いっちぃ〜こと一ノ瀬文香のHR』では、今回のカミングアウトにあたっての決意と今後の抱負を綴ったエントリーが数回に亘ってアップされている。

 コメント欄も開放されているが、案の定、賛否両論である。当事者からの応援のメッセージも寄せられているが、やはりホモフォビックな反応が目立つ。

 また“好意的”なコメントにしても「いっちぃーがレズだろうと自分は一向に構いませんよ」「アニメではそういう系統の作品も度々見てきたので『免疫力』はついてます」などといった、どこから突っ込んでいいのかさえわからないようなものが多く、「カミングアウトしていきなり、こんなに応援メッセージをいただけると思っていませんでした」という本人の呑気なコメントとの温度差を感じてしまう。

 今後、一ノ瀬が「レズビアン」という看板を掲げて芸能活動を展開していくにあたり、一ノ瀬に対する批判は「レズビアン」というセクシュアリティに対する批判に直結してしまう。結果として、レズビアンに対するバッシングだとか、また“好意的”ではあっても無神経な物言いだとかも表面化され、いやおうなしに目に入るようになるだろう。

 そのようなコメントをあえて削除しない姿勢について、高く評価する向きもあるが、結果としては「ヘイトスピーチ」の温床と化しているのが実情だ。

 エントリーの内容自体も、よくよく読むと腑に落ちない点がある。

 その中の一つ『FLASHの内容について』では、カミングアウトすることを決意した動機について、

異性が好きなフリをするレズビアンが多いのは、ゲイと同じように、世の中に誤解と差別が根強くあるからです。特に、レズビアンは、ポルノのような想像しかされなく、性の対象にされがちです。今回、週刊誌でカミングアウトするにあたって、性的なことばかりにクローズアップされるだろうという覚悟はありました。そして、そのことについて触れなければ、記事として成立しないだろうということも分かっていました。それが分かるから週刊誌に限らず、メディアでカミングアウトしてこなかった方も少なくないでしょう。想像してみてください。みなさんが、いきなり見ず知らずに会った人から、「どんなエッチをしているのですか?」と聞かれることを。

 ……と前置きした上で、

誤解を解くにも差別を無くすにも、正しい現実を多くの人が見たり聞いたりしなければ始まらないと思うからです。やっぱり現状では、性的なことに興味を示す人が多いでしょう。FLASHは、購読者がとても多い雑誌です。そして、今回のカミングアウトに至るまでに、予想以上に、綿密な打ち合わせをして頂いたり、掲載前の記事や写真を確認させて頂いたりと、すごく誠意を感じさせて頂きました。FLASHと出会えたことに感謝しています。私の新しいスタートをサポートして頂いたのですから。

 ……と述べている。ちなみに記事本文によるとFLASHのグラビア写真は「実体験した女のコ同士のエッチ」を元にしているのだという。それが一ノ瀬の言うところの「正しい現実」なのだろうか。

 しかし、裏を返せば「予想以上に、綿密な打ち合わせをして頂いたり、掲載前の記事や写真を確認させて頂いたり」した上で、あのようなレズビアンに関して「性的なことばかりにクローズアップ」した、まさしく「ポルノのような想像しか」喚起しない記事を了承した以上、一ノ瀬はその責任について何の言い逃れもできないということである。

 俗に「カミングアウト・エリート」という言葉がある。レズビアンは“たまたま”同性を好きになるのではない。だが、レズビアンの一ノ瀬は“たまたま”グラビア・アイドルとして世に出たがゆえに、カミングアウトのステージを与えられた。そのことによって、もし一ノ瀬個人が自己実現を果たしたとしても、それは必ずしも一ノ瀬が「最終目標」として掲げる「世の中のみんなが、個性を尊重し合って、それぞれに合った幸せの形を追求できるようになることに貢献すること」を意味するわけではない。