百錬ノ鐵

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《レズビアン差別》を正当化する『百合にはさまる男は死ねばいい!?』は真の百合好きこそボイコットすべし #百合はさ #次にくるマンガ大賞

(2023年10月3日 加筆修正)

niconicoダ・ヴィンチが共催する「次にくるマンガ大賞」の2023年度Webマンガ部門で《女同士の愛情》をテーマにした新井すみこ『気になってる人が男じゃなかった』が、百合作品としては歴代初の第1位を獲得した。

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【あらすじ】
CDショップで働いているミステリアスな「おにーさん」が気になってしょうがない女子高生・あや。しかし「おにーさん」の正体は、話したこともない、クラスメイトの目立たない女子・みつきだった――。
SNSで最高に注目を集める女同士の愛情を巡る物語。

また同時に、南高春告/鴉ぴえろ/きさらぎゆり『転生王女と天才令嬢の魔法革命』がコミックス部門の第14位、ゆあま『君と綴るうたかた』がGlobal特別賞を受賞。それなりに認知されてきたとはいえ、未だニッチな印象が拭えない百合作品が、にわかに脚光を浴びる機会となった。

次にくるマンガ大賞2023 Webマンガ部門

https://tsugimanga.jp/winner/2023/web.html

日陰者の百合ファンとしては、快哉を叫びたいところではある。が、手放しに喜ぶことはできない。

ランキング全体を見渡してみると、19位に蓬餅『百合にはさまる男は死ねばいい!?』なる不穏な存在が鎮座している。

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本作は「LINEマンガ インディーズ」への投稿をきっかけに「LINEマンガ」トライアル連載を経て本連載にステップアップした人気作で、現在紙の単行本も2巻まで発売されています。
昨年「次に来るマンガ大賞2022」Webマンガ部門にノミネートされており、今年は入賞を果たしました。
吹奏楽部に所属し、トランペットの1stを担当していた片桐千早。ところが全国レベルの強豪校でトランペットの1stを吹いていたという相川響が転校してきて、そのポジションを奪われてしまい……。タイトルからは容易に想像できない、少女たちの青春ドラマと恋心を丁寧に描いた百合マンガです。

※強調は引用者

昨年度のWebマンガ部門にもノミネートされていたが入選には至らず、本年度では当落ラインすれすれの順位でランクインした(ランキングは20位まで)。一方で、うたたね游『踊り場にスカートが鳴る』、桜木蓮アネモネは熱を帯びる』、ちうね『紡ぐ乙女と大正の月』、肉丸『ばっどがーる』、なうち『雪解けとアガパンサス』といった純然な百合作品は、あえなく落選となっている(ただしいずれもコミックス部門)。

それにしても『百合にはさまる男は死ねばいい!?』とは、なんとも奇を衒った露悪的なネーミングで、視界に入るたびギョッとしてしまう。もっとも、それゆえにWebマンガ(LINEマンガで配信)という媒体では人目を惹きやすく、そうした一種の炎上マーケティングによってアクセスを稼いだ事実は否めない。

さて「百合にはさまる男」の問題については、過去に当ブログでも折に触れて批判的検証を試みてきた。

詳細は『「百合に挟まる男」問題』のカテゴリーから辿っていただきたいが、いまのところ直近の記事がよくまとまっていると思う。

「百合に挟まる男」を擁護する「レズビアン作家」王谷晶(tori7810)の“バイセクシズム”~あるいは「百合に挟まる男」の批判的考察
https://ossie.hatenablog.jp/entry/2022/10/23/172811
※なお、この記事を公開した後に王谷昌からはTwitter@tori7810 ※アカウント削除済み)でブロックされている。

あらためて簡単に説明すると「百合にはさまる男」とは、しばしば誤解されがちだけれど、たんに百合作品に男性キャラクターが登場すること(あるいは百合作品に登場する男性キャラクター)を指すのでは、ない。

もとより『マリア様がみてる』の【柏木優】、昨今の話題作では『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の【グエル・ジェターク】など、いわゆる「当て馬」としての男性キャラクターが登場すること自体は、百合作品において一つの定石・お約束となっている。

しかるに「百合にはさまる男」とは、平たく言えば、レズビアン(同性愛者の女性)のカップルと「3P」をしたがる男性異性愛を、婉曲的に言い換えたものである。

あるいは、あえてレズビアン(非異性愛者の女性)とSEXをしたがる男も、これに含まれるであろう。

  • なお、今日において一般的に「百合」という用語は、もっぱらフィクション作品の表現ないしその解釈に用いられ、現実の「レズビアン当事者」を指すものとしては用いられない。
  • ただし《男が「百合」にはさまる》といった場合には、実質的に「レズビアン(同性愛者の女性)」の隠語――正確には「百合」の語源である「百合族」――としての意味をもつのである。

自身のセクシュアリティを公にしているレズビアン当事者の多くは男性から、実際の行為を見学させてほしい、自分も混ぜてほしいといった提案を受けたことがあるという。また女性の百合作家が、男性の読者から作中の「百合ップル(女性キャラクター同士の恋愛関係)」に“はさまりたい”といったセクシュアル・ハラスメントを受ける事案も発生しており、深刻な社会問題となっている。

《百合に男が挟まりたい》問題の“震源地”を探る~女性百合作家へのハラスメント事案をめぐって
https://ossie.hatenablog.jp/entry/2019/07/28/070048

このような男性異性愛者のセクシュアリティ――女性同性愛者がこのような言動をするといった話は寡聞にして知らないので、やはり男性異性愛者に固有のセクシュアリティといえよう――が、たんなる異性指向の発露ではなく、

  • 女性は男性を愛するべきである
  • 男を愛することこそが「女の幸せ(あるいは成熟)」である
  • 男性(ペニス)を必要としない女同士のSEXは不完全である

……といったヘテロセクシズム(異性愛至上主義)の政治的イデオロギー、そして《レズビアン差別》の構造に依拠していることは論を俟たない。

ゆえに、そのような《レズビアン差別》に依拠するレズビアン」への性的加害の表明(言うまでもないが、レイプといった身体的・直接的な手段によらず、言葉だけであっても性的加害・性暴力は成立する)が、批判を受けることもまた至極当然である。

そこをいくと「百合にはさまる男は死ねばいい」という言辞は、一見すれば「百合にはさまる男」を“批判”するものであるかのように思える。ゆえに、そのような言辞を“批判”する試みは、ともすれば「百合にはさまる男」を擁護する立場によるものと誤解されかねない。

しかし「百合にはさまる男は死ねばいい」という言辞が、仮に「百合にはさまる男」を“批判”する立場からなされたとしても、その“批判”に際して「死ねばいい」という暴力的・脅迫的な文言を用いることで、

じつのところ、むしろ「百合にはさまる男」への同情を惹く効果が生じているのである。

もっとも、仮に「百合にはさまる男は死ねばいい」と実際に発言する人がいたとして、

問題があるとすれば「死ねばいい」という表現が暴力的・脅迫的で不適切だというだけであり、

男が「百合」に“はさまりたい”などと主張する行為を正当化する理由には、まったくならない。

すなわち『百合にはさまる男は死ねばいい!?』というタイトルは、

  • 男性によるレズビアンへの性的加害に対する正当な批判を、露悪的にパラフレーズすることで、批判者を“悪魔化”し、その批判を無効化すると同時に、
  • 「百合にはさまる」という男性異性愛者の、ヘテロセクシズムと《レズビアン差別》に依拠した欲望を正当化する

――このような二重に倒錯したレトリックの上に成り立つ、一種のヘイトスピーチとして機能するものだ。むろん「ヘイトスピーチ」の対象となるのは「百合にはさまる男」ではなく「レズビアン」に他ならない。

じじつ、作者の蓬餅(よもぎもち)はタイトルの「百合にはさまる男」について、まさしく上述したように「百合作品に登場する男性キャラクター」と混同したうえで、その存在を“肯定”する発言をしている。

女子高生たちの“百合”描く作者の疑問「なんで毎回、男女の恋愛が優先?」、実績ゼロで“次にくるマンガ大賞”ノミネート
https://www.oricon.co.jp/special/60275/2/

――片桐と相川の間に入る唯一の男の子が日向です。彼が出てくることで、百合好きからは拒否反応のコメントもありましたが、女子同士の話にまとめなかった理由は?

蓬餅さん 女性だけで完結しない世界での女性同士の繋がりが好きなんです。マンガで時々ある展開で、「主人公(女)に親友(女)が恋するけど、主人公にはヒーロー(男)がいるので失恋が確定されていて、親友は親友ポジションで落ち着く」みたいな流れがあるんですが、それを見て毎回「なんで男女の恋愛が優先されるんだ…?」と思っていまして…。男女の恋愛を扱うマンガが多いので、当たり前なのは分かっているんですが。自分で見たいものを描いたらこうなりました。

もっとも、実際に作品を読んだ人によると、上掲した解説文や作者自身のコメントにあるとおり、その奇を衒った露悪的なタイトルに反して、とくに差別的な印象を受ける内容ではないという感想も散見する。

そも作者が「百合にはさまる男」という用語の、本来の由来や意義を完全に誤解したまま、なおかつそれを肯定・擁護する意図で用いてしまったことが、さらに事態をややこしくしている。

  • げんに作者はTwitter@4049forever)でも、そのような誤解に基づいて「百合にはさまる男」を擁護する論陣を張っていたが、筆者を含む百合ファンからの反論を受けて一連のツイートを削除している。

しかし、作品のタイトルが内容を正確に表していないというのであれば、

作者ならびに出版社は、今からでも作品のタイトルを実際の内容に即したものに変更するべきではないか。

まして先述のとおり『百合にはさまる男は死ねばいい!?』は、内容以前にそのタイトル自体が、逆説的に《レズビアン差別》を正当化する「マンガの形を借りたヘイトスピーチ以外の何物でもない。

だいいち、そのようなレズビアン(非異性愛者)」に対する異性愛(男性を愛すること)の要求という明確な人権侵害を示す言葉を、面白おかしくジョークのネタやネットミームとしてカジュアルに消費してしまう平坦な言語感覚に、寒気がする。

したがって、百合文化を愛し、現実社会の《レズビアン差別》に反対する私が、この奇を衒った露悪的な炎上マーケティングに加担することは、金輪際ない。

また良識ある多くの百合ファンも、真の百合好きを自認するのであれば、同様に本作のような「マンガの形を借りたヘイトスピーチをボイコットすることを強く推奨する。