百錬ノ鐵

百合魔王オッシー(@herfinalchapter)の公式ブログです。

バイセクシュアル女性に「AV」のイメージを押しつけて悦に入るリリー・フランキー

(2013年6月26日 加筆修正)

タレントのリリー・フランキーといえば、NHK『ハートをつなごう』のLGBT特集にコメントを寄せるなど“ゲイ・フレンドリー”な姿勢をアピールする文化人として知られている。

ハートをつなごう LGBT3 人と人とのつながりメッセージ
http://www.nhk.or.jp/heart-net/lgbt/video/

(テロップ)セクシュアルマイノリティーの皆さんへ

リリー・フランキーです。

セクシュアルマイノリティー」と言われている方々――「少ない」「そういう人って実際会ったことがない」と言う人が実際いますけど、そっちのほうがちょっとおかしいな、と思って。そんなに少ない人たちじゃないと思ってますけども。

やっぱり人間というのは、最終的にはやっぱ、みんな、どんな種類の人でも、同じことで傷ついたり、同じことで切なくなったり、同じことを考えているっていうところが、なんか分かち合える、愛しい、「人」の姿というか。そういうふうに思ってます。

こうやって番組で「セクシュアルマイノリティー」と言われている人たちのことを取り上げるっていうことは、いいことだなと。これは人の弱いところというか……自分に理解できないものは“ないもの”にしてしまおうと――とくに日本はそういう風潮がありますけども――そういうことを“ないもの”にしてしまおうというか、“普通じゃないもの”にしてしまったほうが安心するんじゃなくて、ちゃんと「現実」というか、ちゃんと「存在」というか、少なくともそれを知らないことのほうが……僕は、こういう色んな人間がいっしょに生活している中で「知らない」というよりも「知らされてない」というか――そういう、狭い価値観の中にいることのほうが、僕は恥ずかしい価値観だと思うので。

当たり前のように……当たり前のことが当たり前のように伝えられるような、そういう雰囲気で進められていくんだとしたら、すごく価値のある番組だと思っています。

リリー・フランキーでした。

さて、そんなリリーは集英社週刊プレイボーイ」誌上で『リリー・フランキーの人生相談 シーズン2 ロックンロールJAPANツアー編』という連載をもっているが、今号ではバイセクシュアル女性からの相談に応じている(2013年7月1日号 P.128-129 ※以下、強調は引用者)。

もっとも相談の本題は彼女の男性パートナーのSEXが激しすぎて膀胱炎および尿道炎を患ってしまったというものであったが、会話の流れから彼女がバイセクシュアルであることが判明すると、リリーは本題そっちのけでひたすら彼女のセクシュアリティに食らいつく。

俺、一番好きなAVのシチュエーションが、レズの女のコふたりと男ひとりなんだよね。ひとりの女のコがぺ二バン着けて、もうひとりの女のコをヤッてる。そのヤッてる女のコが男をフェラしてる、みたいなのがいい。案外ないんだよ、そのパターン。

俺、レズと3Pするのが夢なんだよ! だから絶対バイセクシュアルを隠さないほうがいいよ。まったくのレズで「チ●ポなめるのなんて考えられない」とかいうのなら別だけど。バイセクのコとノンケのコと俺っていうのが、設定として一番いいんだよ。だから、彼氏には「じつは私、女のコともしてた」って言うのが一番いいんじゃない。

(前略)だって真性のレズじゃないし、そういう経験が25歳のときあったって話でしょ。そんな深刻な話でもないじゃん。うらやましい。女のコふたりのレズものAVを観てると終わりがないから、やっぱりちょっとタルいんだよ。そこに男が入ってくるといいんだよねえ!

(前略)レズは絵面がいいから、「え!? じゃあおまえ、あとひとり調達できんの?」みたいに食いついてくると思うよ。彼氏がうらやましいよ。なんか、俺は人生損して生きてる気がしてきた。

繰り返すが、相談者は自分がバイセクシュアルであることをパートナーにカミングアウトできなくて悩んでいるわけではない。ところがリリーは、相談者の悩みについては「ここまできたら、もうそんなこと、どうでもいいじゃん!」と勝手に切り捨てるのである。早々と切り上げたうえで、上掲のごとく的外れな「アドバイス」に相談全体のおよそ半分を費やすのである。

すなわちここでリリーは、人生相談にかこつけて自己の卑しい性癖を露出しているにすぎない。

加えて「真性のレズ」という言辞からもわかるとおり、リリーは女性のバイセクシュアリティについて、独立したセクシュアリティではなくあくまで「レズ」のバリエーションの一つとして捉えている。そしてその認識はAVのイメージに基づくものであり、そのような偏見を現実のバイセクシュアル女性にも押しつけようとする。

またその意味においても《女のコふたりのレズものAVを観てると終わりがないから、やっぱりちょっとタルいんだよ。そこに男が入ってくるといいんだよねえ!》という発言は、SEXには「男(ペニス)」の存在が必要であるとする異性愛至上主義と不可分だ。

元より、AVの存在自体が女性差別の上で成り立っているという見方もある。その上でリリーは、たんに自己のAVに関する嗜好を吐露しただけとも言えるかもしれない。

だが先述のとおりLGBT差別の問題に関心を寄せるのであれば、自己のそうした思い込みが異性愛至上主義のバイアスによるものであることを疑ってみたらどうだろうか。自己とセクシュアルマイノリティー」との間に壁を設け、LGBT差別を“他人事”として捉えるリリーの姿勢が、このようなところからも窺える。

いったいリリーは、あの番組から何を学んだのだろうか。

(2013年6月24日 追記)

上記本文において《相談者の悩みについては「ここまできたら、もうそんなこと、どうでもいいじゃん!」と勝手に切り捨てるのである。》と書きましたが、実際には下記のやり取りもあります(【E子】は相談者)。

E子 (前略)どちらかといえば男のひとのほうが好きです。だから膀胱炎になったことも今の彼には一切言ってないんです。
リリー それは言ったほうがいいんじゃない? そしたら彼氏も手洗いがマメになるとか、尿道をいじくり倒したりしなくなるでしょ。
E子 でも、言ったらそれにショックを受けるんじゃないかと……。
リリー それはないでしょ。逆に言わないと彼とのセックスが遠のいていくわけだし、言ったからって彼がセックスしなくなるとは考えにくいよ。(後略)

当該の記述は、あたかもリリー・フランキー氏が相談者の悩みについては“一切答えていない”という印象を与えかねないものであり、公正性を欠いていました。
謹んで訂正の上、お詫び申し上げます。

(2013年6月26日 追記)

とはいえ、見出しはこのように付けられています。

彼氏には「実は私、女のコともしてた」って言うのが一番いいんじゃない(リリー・フランキー
じゃあカミングアウトしてみます。あと3Pの経験は、男の人ふたりと女ひとりのはありますけど……(28歳・女性・OL)

相談全体を通して、本題であるはずの「彼氏のSEXが激しすぎる件」については等閑視され、すっかり“おまけ”“ついで”のような扱いになっていますので、やはり《本題そっちのけでひたすら彼女のセクシュアリティに食らいつく。》という印象は変わりません。