百錬ノ鐵

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LGBTを「性癖」呼ばわりし親の責任を問う“似非リベラル”の橘玲

集英社週刊プレイボーイ」で作家の橘玲が連載しているコラム『真実のニッポン』は、折々の時事ネタに絡めて、しばしばセクシュアリティジェンダーをめぐる問題を“科学的”な見地から解説している。

だが“科学的”といっても、そのベースとなるのは進化心理学などの通俗的なオカルト擬似科学である(そんな橘が新潮新書から上梓した新書『言ってはいけない』は、我田引水と確証バイアスに成り立つ「トンデモ本」の見本のような代物だ)。

とくに今週号(No.39-40 10月3日号)では、俳優の強姦事件に関するマスコミの反応を取り上げながら、LGBTを引き合いに出すことで、その「ダブルスタンダード」をあげつらっている(P.87)。

「子育てプロジェクト」では性癖は矯正できない

(前略)
 ところで、親は子どもの性癖を自在に矯正できるのでしょうか。この「子育て神話」には、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)という反証があります。性的マイノリティーが多数派の異性愛者と平等な人権をもつのは当然としても、子どもの性的指向が「ふつう」とちがうことを自然に受け入れられる親は多くないでしょう。だとしたらなぜ、子どもの「性癖」に気づき、行動に「ブレーキ」をかけなかったのでしょうか。
 もうおわかりのように、ここにはマスコミに定番のダブルスタンダードがあります。LGBTは人権問題だから、その性癖を問うと面倒なトラブルを引き起こします。それに対して強姦致傷は犯罪なので、好き勝手に「悪者」を探し出して叩くことができるのです。
 合法な性癖は子育てに関係ないが、違法な性癖は親が矯正できるという「政治的に正しい」主張にはなんの根拠もありません。子どもの性格や性癖というのは、法律に合わせて遺伝と環境(子育て)の影響が決まるようにできているわけではないからです。
(後略)

橘の論旨展開は、まず前提からして大きな事実誤認がある。

若いLGBT当事者は、その性自認および性的指向について親から「ブレーキ」をかけられないどころか、異性愛ないしシスジェンダーへの適応を“強制(矯正)”される危険に晒されているという事実は、もはや一般常識のレベルだ。いわゆる《ゲイ治療》の多くは当事者が自ら望んだことではなく、まさに《子どもの性的指向が「ふつう」とちがうことを自然に受け入れられ》られないという親が、当人の意志に反して強制的に医師の診断を受けさせた事例である。

そもSOGI(性的指向性自認)に立脚するLGBTの概念を「性癖」などという侮蔑的な語彙で言い表すことからして、いかにも典型的かつ露悪的なホモフォビア/トランスフォビアに満ちた文面だ。

元より「性癖」とは「性格(パーソナリティ)」の偏差(癖)を示す言葉であり、それを「性(セクシュアリティ)」の意味で用いるのはありがちな誤用である(よって《子どもの性格や性癖》という記述は同語反復だ)。作家の立場から報道のあり方に疑義を呈するのであれば、卑俗で刺激的な文言に飛びつく前に、その言葉の誤用を指摘すべきであろう。

不肖の息子のしでかした性犯罪について、その親に監督責任を問うことの不合理を指摘するのはいいとしても、橘が実際にやっていることといえば、それにかこつけてLGBTに対する「ヘイトスピーチを行っているだけである。

《子どもの性的指向が「ふつう」とちがうことを自然に受け入れられ》られないという親の差別意識を無批判に追認した上で、あまつさえ《だとしたらなぜ、子どもの「性癖」に気づき、行動に「ブレーキ」をかけなかったのでしょうか。》などと“問う”行為は、裏を返せばLGBT当事者の親に向けて、子の性自認ないし性的指向に「ブレーキ」をかけるべきだと主張しているに等しい。

また、その一方で《性的マイノリティーが多数派の異性愛者と平等な人権をもつのは当然》などと薄っぺらな建前を並べるのは論理矛盾であり、読者からの批判を交わすための予防線を張っているのが見え見えだ。

  • そういえば橘はかつてのコラムでも《同性婚を認めない日本は人権後進国》といった主旨のことを書いていた。が、それも今思えば同性婚を望む当事者の権利を訴えるというより、ただ日本人の意識の“遅れ”をあげつらうことで、橘自身の“進んだ”リベラル感覚を賢しらに自己アピールするものでしかなかった。

同連載をまとめた単行本『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』のタイトルに顕著なとおり、橘の基本的な論調は「正義」や「政治的正しさ」を大義名分としたマスメディアの欺瞞を暴き立てるというもので、ようはTwitterに蔓延る十把一絡げの「反PC主義者」「PCフォビア」と変わらない。

だが他ならぬ“似非リベラル”である橘自身が、このようにして「PC」を盾にした「ヘイトスピーチ」を垂れ流している。“トンデモさん”は自分に当てはまる言葉で他人を攻撃するという「法則」が、また新たに実証された。