2021年10月8日、KADOKAWA主催の「第28回電撃大賞・金賞」を獲得した神奈士郎『百合少女は幸せになる義務があります』は、その発表と同時に、
タイトルに反して異性愛至上主義と《レズビアン差別》に根差した差別的な内容に加え、名作百合アニメから臆面もなく剽窃したネーミングにより、出版前の時点で“炎上”することとなった。
折しもこれと時期を同じくして、同じKADOKAWAから出版された『琴崎さんがみてる 俺の隣で百合カップルを観察する限界お嬢様』(五十嵐雄策・著 弘前龍・原案)が、これまたまったく同じ理由で炎上していた真っ最中であり、それまで数多くの百合コンテンツを世に送り出してきたKADOKAWAに対しても失望の声が寄せられていた。
その2か月後。12月10日、電撃大賞の公式サイトにて「第28回電撃大賞」に入選した各受賞作の選評が公開される。
第28回電撃大賞 入選作品 金賞『百合少女は幸せになる義務があります』著/神奈士郎
ここへきて同作は、なんと作品のタイトルから登場人物のネーミング、されには作者の名義まで、一挙に変更されることが発表された。
- タイトル
百合少女は幸せになる義務があります→この△ラブコメは幸せになる義務がある。
- 作者名
神奈士郎→榛名千紘
- キャラクター
大神司→矢代天馬
来栖川綾香→皇凛華
姫宮桜子→椿木麗良
また選者は以下のとおり。
三雲岳斗(作家)
三上延(作家)
吉野弘幸(アニメーション脚本家)
小原信治(放送作家・脚本家)
荒木人美(電撃文庫編集長)
遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)
ところが、この内で同作を《個人的には大賞でも遜色ない一作。》と手放しで称賛しているのは小原信治(放送作家・脚本家)のみであり、
他の選者のコメントは、どうにも奥歯に物が挟まったような物言いが目に付く。
たとえば遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)のものを抜粋してみよう。
(前略)繊細なテーマに対する理解が足りない点が気になりましたが、楽しく軽妙な掛け合い、まっすぐで瑞々しい心情描写の随所に青春の躍動と幸福感が迸る、読み応えのあるラブコメディです。
「繊細なテーマ(ここでは女性の同性愛を指していることは自明だ)」を扱っておきながら、そのテーマに対する《理解が足りない》などというのは、
作家としての矜持に係る問題であり、作品にとって致命的な欠陥だ。小手先の作文技術だけでどうにか誤魔化せるような問題ではない。
《楽しく軽妙な掛け合い、まっすぐで瑞々しい心情描写の随所に青春の躍動と幸福感が迸る、読み応えのあるラブコメディ》というのも、プロの商業作品としては当然のクオリティであり、それだけで「金賞」を授与するに値する理由としては、あまりにも弱い。
その年の「小説部門」の応募総数は4411作(その内、長編は3255)とのことだが、他の応募作品が、それほどに低レベルだったということなのだろうか? あるいは、仮に出来レースであったとしても、もっとマシな作品を選ぶことはできなかったのか?