百錬ノ鐵

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「レズAV」の嗜好を「セクハラ」と同一視する偏見〜牧村朝子『百合のリアル』(3)

(2015年3月11日 加筆修正)

さて、そうした“客観的”な「情報」をめぐる解釈や記述の問題とは別に、牧村個人の主観、あえて言えば「偏見」を露呈している部分も散見する。

たとえば《「レズもの」のAVが大好き》という男性のセクシュアリティについて、レズビアンのセックスに混ざりたいという欲望》と同一視したあげく、レズビアンに対して《「彼女とのヌード写真いくらで撮らせてくれる?」だとか「女なんだから本当は欲しくなるでしょ?」とか言》うといったセクシュアル・ハラスメントと短絡している(p.173)。

(p.173-174)
 こういうのって、お互い様の話です。レズビアン側が「男を知れば変わるんだろ」とか「俺が治してやる」だなんて言われるいわれはないのと同じように、レズビアンが「男キモイ」とかわざわざ直接言う意味もないのです。思うことは自由ですけれど、伝えることで特にお互い特はしません。
 とはいえ、いわゆる「レズもの」のAVが大好きだとか、レズビアンのセックスに混ざりたいという欲望をもっている男性はいらっしゃるので、そういう方の一部から絡まれることもあるかもしれませんね。わたしも、タレントという職業柄はあるにしろ、「彼女とのヌード写真いくらで撮らせてくれる?」とか「女なんだから本当は欲しくなるでしょ?」とか言われたことがあります。しかしそういう方に対して「男ってキモイ」などと言ってしまっては、他の男性含めてレッテル貼りすることになってしまいます。なのでわたしはそういう人に対し、いつもこう言ってかわすのです。「いやー、なにはともあれ女の子って本当にイイわよね! あなたもわたしも、女の子が大好き同士なのね!」って。
 それでも「男の良さ」を教えてやるとか食い下がってくる人には、「そんなに男がいいって言うなら、わたしなんかに構ってないであなたが男に抱かれてきてちょうだい☆」って気持ちになります。まあ、身の安全のためには、相手を怒らせないように逃げることを優先にしますけどね。

その上で、次の章には《(前略)レズビアンの側は、男性全体がレズビアンを性的な目で見ているわけではないという事実に目を向けてみること。》という言辞があり(p.188)、すなわち牧村はレズビアンを性的な目で見ている》という一部の【男性】の典型として《「レズもの」のAVが大好き》である【男性】の存在を挙げているのだ。

だが、これはあたかもホラー映画やデスメタルなどの暴力的な表現を好む人間を犯罪者予備軍と決めつけるのと同様に、たんなるタブロイド思考でしかない。元より女同士のSEXに性的興奮を抱くことと、そこに自分が“混ざりたい”と思うことは、まったく別種の「欲望」である。セクハラに至っては言わずもがなだ。

そのような、いわゆる《男の百合萌え》について、しばしば「覗き見感覚」などといったまことしやかな“分析”がなされることがある。

しかし“覗く”という行為は、たんに“見る”ことではなく、《本来自分がいてはならない場所にいる》という背徳感と不可分だ。

もっとも「レズもの」にかぎらず、他人の性行為が映されるAVという娯楽自体が、ある種の背徳感の上に成り立っていることは否めない。しかしAVの視聴者は、まさしく撮影が行われているその現場にいない以上、あくまでも作品世界の外側に自己の視座を置くこととなる。じじつAVにおける「盗撮物」は個別のサブジャンルとして、一般のAVから区別されている。

男性異性愛者の誰しもが「レズAV」を好むわけではないなら、“覗き”の嗜癖に関しても同じことだ。

(続く)