(2021年1月2日 加筆修正)
今朝、ツイッターのTLに気になるツイートが回ってきた。アカウント名は@vhjcfhjv。
- @emma_2_elと表示される場合もあるが、現在はどちらも削除されている。
すでにアカウントごと削除されてしまったので要約すると、出版業界に就職を希望する@vhjcfhjvが、児童小説で知られる「青い鳥文庫」の説明会に参加した際、担当者が「今LGBTが話題になっているから、うちでもBLを取り入れてみたい」といった主旨の発言をしたとか。
それについて@vhjcfhjvが「BLとLGBTをいっしょにするな!」といったことを、出版業界志望者とは思えない稚拙な文章で感情的に大非難。そこへBLが嫌いで仕方がない人たちが付和雷同し、私が見た時点で4千件以上ものリツイートを記録していた。
しかしこの件、どうにも胡散臭いのである。
まず@vhjcfhjvなるアカウントは、件のツイートが投稿されたのと同じ日(2020年12月11日)に作成されている。裏を返せば@vhjcfhjvは、わざわざ件のツイートをするためだけに作成されたアカウントということになる。
そのような、何処の馬の骨だかわからない無名ユーザーが、ちょうどアカウント作成した日に投稿したツイートが“たまたま”バズり、4千件以上RTされるというのは、あまりにも話が出来すぎではないか。
そして@vhjcfhjvは、さらにいえば、BLバッシングを煽動するために作ったアカウントと見なして差し支えあるまい。ああいう文脈でBLを出したら、嬉々としてBLを叩きたい連中が寄ってくるのは、火を見るより明らかであるからだ。
牙六-ガム- ガム?贅沢な名だね。お前は今日から石禁だよ。@TABACCOSHOP(註:アカウント名の顔文字を省略)https://twitter.com/TABACCOSHOP/status/1337602142287237120
BLとLGBTは違うものだから、混同しないで欲しい。 BLもGLも創作でポルノでしかないのに、NLや腐女子というワードは駄目とかそういう話もあって、ややこしいんだぞ。本気でLGBTとくっつけるなら、BLとかは間違った知識付ける元だから滅ぼされるべきなんだぞ。
《BLもGLもポルノでしかない》などと、ネット上の悪意に満ちた情報を受け売りしただけでBLもGLも一冊も読んだこともない阿呆が「滅ぼされるべき」などと気勢(奇声?)を上げている様は、じつにおぞましい。
いちいち説明するのも馬鹿馬鹿しいことだが「BL/GL」といった語彙は、あくまでも創作における同性キャラクター間の恋愛表現を示す符丁にすぎない。ゆえに「BL/GL」を使って「ポルノ」を表現することも可能なのだけれど、だからといって「BL/GL」を一概に「ポルノ」と断定するのは、論理的な思考ができない人間の発想である。
それにしても、この阿呆は《BLとかは間違った知識付ける元》などと意識の高そうなことをのたまいつつ、当人は「NL」という表記の根本的な差別性に気付かないし気付こうともしない。
なんのことはない、すなわちBL/GLバッシングの本質とは、たんなる同性愛嫌悪・異性愛至上主義の差別主義者が、現実の同性愛だけでなく創作の同性愛の表現も嫌悪しているというだけなのだ。
緋色@hD6M2VhtxpqTZn2https://twitter.com/hD6M2VhtxpqTZn2/status/1337901189195653120
LGBTは人間の性的趣向。BLはジャンル。 別にBLを悪く言っているわけではなく、フィクションとしての枠組みと性的趣向をごっちゃにするのは良くないのかなとなんとなく思う。
本来「BL/GL」は「ジャンル」でも「枠組み」でもなく、あくまでもフィクション作品の人間関係の解釈でしかないのだが、それはさておき。
現実社会のセクシュアリティ問題について意識高そうなことをのたまう御仁が、一方でLGBTを「性的趣向」と表現しているのは、どうにもちぐはぐだ。たとえるなら人種差別に反対という人が何のためらいもなく「シナ人」などと口にするような違和感がある。
これもあらためて言うまでもないが、「LGB(レズビアン/ゲイ/バイセクシュアル)」は「性的指向(同性愛および両性愛)」であり「T(トランスジェンダー)」は「性自認」の概念だ。
いずれにしても「性的趣向」または「性的嗜好(志向)」などという言葉遣いは、セクシュアリティ問題について無知な人がよくやる初歩的な誤用で、それこそ「LGBT」の基礎知識について書かれた文献ではかならず注意を促しているほどの“基本のき”である。
このような、意識がお高くも間抜けな人々を見ていると、じつのところ体系的な知識が無くとも情報のつまみ食いだけでもっともらしいことが言えてしまうツイッター言論の功罪にまで、つい思いを巡らせてしまう次第である。
加えて@vhjcfhjvは、そのようにしてBLに対するバッシングを煽動しておきながら、当人も《いや私も腐だけど(以下《》内、原文ママ)》どと後付けで言い訳していたのが、かえって白々しい。
- 前述のとおり@vhjcfhjvは件のツイートの公開に合わせて作られたアカウントであり、それ以前に自らが「腐(腐女子=BLの女性ユーザー)」であることを示す痕跡はいっさいなかった。
同性愛を否定する同性愛者がざらにいるように、BLを否定する腐女子がいたって、おかしくもなんともない。そしてそのことがBLに対する偏見や不当なバッシングを正当化する理由にならないことも自明である。
さらに@vhjcfhjvの主張は、BLが《「男性同性愛を描いた作品」ではなくて「主に女性を想定とした読者が男同士の恋愛を娯楽として消費する文化」》であるがゆえに、未熟な子供たちにそのような《他人を性的に消費すること》を教えるのはけしからん、というものであった。
しかし《主に女性を想定とした読者が男同士の恋愛を娯楽として消費する文化》というのは、あくまでもBLの“傾向・特徴”であり、BLの“定義”が《男性同性愛を描いた作品》であることには変わりない。そうでなければ《男性同性愛を描いた作品》を《主に女性を想定とした読者が娯楽として消費する》という現象も成立しなくなってしまう。
ようするに@vhjcfhjvが言いたいのは、現実の「同性愛」とフィクションの「BL」は違うのだ、といった退屈な主張のようであるけれど、こうした雑な言葉遣いの文章を書いて人に読ませる神経の持ち主は、文章を飯のタネにする出版業界に向いていないと思われる。
だが、いずれにせよ@vhjcfhjvは《他人を性的に消費すること》が一体どういう意味で何が問題なのか、またBLがなぜそれに該当するのか、を自分の言葉で明示できていないから、論点先取に陥っている。
そも“現実の同性愛”なる観念を一律的に規定することが、それ以外の「同性愛者」のありようを否定・排除しかねないことの暴力性・差別性についても自覚すべきであろう。
それでもBLを蛇蝎の如く嫌う意識のお高い人々は「BLはファンタジー!」と馬鹿の一つ覚えを繰り返すであろう。しかし「青い鳥文庫」は基本的にファンタジー小説のレーベルなのだから、ファンタジー表現の「BL/GL」を取り入れることは何の問題もないはずだ。
- 繰り返すが「BL/GL」が「ポルノ」であるという曲解は上述の理由から悪意に満ちた印象操作であり、もはやデマや風評被害の類と見なして差し支えない。
むしろ、このような文脈で「ファンタジー」という語彙を否定的・侮蔑的なニュアンスで持ち出す神経の人間が「ファンタジー小説」を論じるのは、冒涜以外の何物でもない。
(2020年12月31日 追記)
そも事実が@vhjcfhjvの証言のとおりだとすれば、件の「青い鳥文庫」担当者はなにも「BL」と「LGBT」が“同じ”であるとは一言も言っていない。
ただ「BL/GL」がきっかけで、現実社会の《LGBT差別》やセクシュアリティ問題に関心を向けるようになったという人もけっして少なくはない(また逆に近年の『おっさんずラブ』の国民的ともいえる大ヒットやBL作品が続々と実写化されるといった現象の背景には、やはり「LGBT」の社会的認知の高まりによって、同性愛に対する大衆の偏見や忌避感が弱まっている可能性もじゅうぶんに考えうる)。
たとえきっかけがどうあろうと、その後に現実の「LGBT」について正確に学んでいけば、ファンタジーの「BL/GL」との違いも自ずと見えてくるはずである。その可能性さえも否定して、馬鹿の一つ覚えのように「BLとLGBTは違うのだ」と頭ごなしの的外れな説教を繰り返すだけでは、けっきょく臭い物に蓋をしているにすぎず、認知も理解もまったく深まらないのではないか。
煎じ詰めれば「BL/GL」のユーザーがそれらを現実の「ゲイ/レズビアン」と混同しているという決めつけは、ようするにオタクには現実とファンタジーの区別が付かないという、紋切型のオタク・バッシングの再生産でしかない。
「LGBT」に偏見をもつなという側が「オタク」に対する偏見に凝り固まっているようでは、何の説得力もないのは言うまでもなかろう。